立花課長は今日も不機嫌
静寂とは正反対の賑やかな空気に乗せて、待っていたものとは違うセリフが耳に届けられた。
すり足のような足音と共に良樹さんが登場したのだった。
「……あら、もしかしてお邪魔だったかしら」
私たちを見て、良樹さんが目をパチクリとさせる。
「あっ、いえっ、そんなことは」
「あら、そお? なんだか二人ともピンク色の空気に包まれてるけどぉ?」
大きく見開いた目にからかいの色が滲んだ。
ピンク色の空気だと言われて、私の頬まで同じ色に染まりそうだった。
「で、兄貴はいったい何の用だ」
「もう、相変わらず冷たいのね」
立花さんの質問に、良樹さんが眉尻を下げてシュンとする。
「海人の様子が気になったから来たに決まってるじゃないの。それと、杏奈ちゃんのこともね」
私に向けてウインクを飛ばす。