立花課長は今日も不機嫌

「でも、杏奈ちゃんを送って行かなきゃならないでしょう? 海人は運転できないし」

「え?」


立花さんがソファの背もたれから身体を起こす。


「え? って何?」

「あ、いや、タクシーを……」

「もう呼んであるの?」

「……いや、これから……」


え?

まだ呼んでなかったのだ。
てっきり、もうすぐ着く頃かと、寂しい心持ちでいた私。

一瞬私へ向けられた立花さんの視線は、すぐにそらされた。


「それならよかったじゃない。私が責任を持って送って行くわ」

「大丈夫なんですか?」

「もちろんよ。こんな時間までここにいさせたのは私だしね。それとも、私じゃ嫌かしら?」

「そんなことは……」


右手を横に振って否定。


「それじゃ、決定ね」

「宜しくお願いします」


私と頷き合って、立花さんへ向き直る。


「海人、そういうことだから、杏奈ちゃんはお預かりするわよ」


立花さんは返事はせず、首を縦に振って頷いただけだった。

< 178 / 412 >

この作品をシェア

pagetop