立花課長は今日も不機嫌
「完全な片思いだけどね」
「でも、夕べはずっと一緒にいたんでしょ?」
「それには、いろいろと諸事情があって……」
沙月に説明するには、良樹さんのことも、立花さんがお酒を飲めないことも話さなくてはならなくて、
何度も話が前後しながら、ようやく辻褄を合わせることができたのだった。
「なるほどね。キス魔だと信じたからこその、あの必死さだったのね」
ニヤニヤと沙月が笑う。
「……何よ」
「いや、立花さんの腕を引っ張って会場から出て行ったときの杏奈ときたら……」
そこまで言ってから、また笑う。
「だって、誰かにキスするところなんて見たくなかったから」
「ふふふ。そうよね。でも、自分がキスされるとは思わなかったの?」
「――っ、だよね」
そこまで考えは及ばなかった私。
とにかく、あの場にいる女性たちから引き離すことに必死だったから。
……でも、立花さんが本当にキス魔だったとして、私がされるんだったら……それはそれでいい。
……って、何を考えてるんだろう。
キスシーンを勝手に想像して、また頬が熱くなるのだった。