立花課長は今日も不機嫌

「初のご指名だよ、杏奈ちゃん」


思いがけない言葉に、一瞬頭が真っ白になる。


「……本当ですか?」


ウエイターが大きく頷いた。


この私に指名⁉︎
そんな日がくるなんて思いもしないことだった。


驚きと喜びがない交ぜになって、思わずその場でぴょんと飛び跳ねる。

指示されたテーブルへ視線を送ると、そこにいたのは、30代後半と思しきちょっと小太りのサラリーマン風の男の人だった。


あの人は確か……。


自信のない記憶を辿ってみる。

たまに来店はするものの、テーブルに女の子は誰一人付けず、ただひたすらお酒を飲んでいるという変わったお客さんだ。

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