立花課長は今日も不機嫌
開いた窓の奥を覗こうと、腰をかがめる。
するともう一度、「佐伯」と、今度はさっきよりも強い口調で呼ばれた。
「――はいっ」
小学生ならば良い返事だと誉められそうな言い方に、自分で恥ずかしくなる。
頭の上に手をかざしながら車に近づいた。
「乗って」
「え?」
「ほら、濡れるから」
乗れって……私が、だよね……?
……どうして?
急かされているにも関わらずのんびりしていると、立花さんが運転席から身体を乗り出して器用に助手席のドアを開けた。
そうまでしてもらって乗らないわけにもいかない。
「……失礼します」
ドアを更に引いて乗り込んだ。
本降りとまではいかなくても、軒先から車までのほんの少しの距離でも濡れた髪の毛。
すぐに走り出した車の中、ハンカチで拭った。