女神の微笑み
そこに母はいた。

今まで見たこともない母の姿だった。

吐血した母は下を向き、うずくまっていた。

「大丈夫?!」

かけよって抱きおこしてみたものの、苦しそうにしてひきつった顔の母は返事をしない。

「お母さん!」

気づけばアヤは、幼き頃にそう呼んだきり、使った覚えのない<お母さん>の言葉を口にしていた。

苦しそうにしている母の顔が少しだけゆるんだ。

笑いかけようとしたのだ。
アヤはこみあげるものを拭い去り、急いで119番通報した。


そして10分後、アヤは救急車の中で、母の手を握っていた…
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