女神の微笑み
「もう、行くよ」
付き添っていた教官にそくされ、アヤは母にそう言い残し、振り返ることなくその場を後にした。
今思えば世間の目を気にした母が娘を早く外に出すために演技をするであろうことはどこかでわかっていたはずだった。
それでもアヤはどこかで母のあの涙を信じて、裏切られた。
何故信じたのかはわからない。
でも今のアヤに、そんな母への恨みなどなかった。
ただ、虚しさだけが残った。
いつの頃からか、強がることや飾ることだけがアヤのプライドになり、必死にそんな自分を演じてきた今のアヤ、あの母の涙を信じたなんて誰も信じてはくれないだろうし、そんなことは言えない、言えるはずもない。
本当のアヤを知る者は誰一人いないのだ。ユミも、さくらも、今のアヤを慕い、敬い、尊敬しているのだろう。虚しいよ、本当に。
悲しいと言うのが本当なのかもしれない。でも、悲しいと言えないのが今のアヤ。
気がつけばまた、アヤの目から涙が流れていた。
さきほどの一筋の涙を洗い流してくれるほど、大粒の涙が。
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