女神の微笑み
消灯後、どれほどの時間がすぎたのかは時計もないこの部屋ではわからない。
でも何時間かはこうして布団に潜り、考えこんでいたのは確かだ。
さくらはそっと目を閉じ、眠りについた。






ちょうどその頃、ユミとアヤは同じ<院>にいた。
同じと言っても院内での私語は一切禁止である。
二人が会話を交わすなどもっての他だ。
ただ偶然、二人の単独部屋が隣同士であったため、教官の目を盗み、壁をたたき合うことで、お互いの淋しさを、和らげていた。
移されて来たのはユミが一日早く、今日隣にアヤが移されてきた時、ユミは今何よりもうれしかった。
どうにか一言でも会話ができないものかと必死になって考え、それだけで今日一日が過ぎたと言ってもいいほどである。
ユミが壁に向かってトントン、と二回叩くと、隣の部屋にいるアヤもトントン、と二回返す。
それがうれしくてユミは今日何度もアヤの部屋に向かい、壁を叩いていた。
アヤもまた、音が鳴るたびにトントン、と返した。
話したくても話せない、でも確かに隣にいるという事実が、二人にいくらかの安心感を与えていたのだ。
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