嘘と正義と、純愛と。
「俺はっ……!」

腕に食い込むほど力を込めて声を上げたのと同時に、スマホから着信音が聞こえてきた。それは私のカバンから。

電話の着信の相手に心当たりはないと思ったけれど、もしかしてという思いで目を揺るがせた。
広海くんもその音が割り込んできて少し冷静になったようで、目の色が冷静な時と同じように戻っている。

広海くんは私に跨ったまま、ベッドの足元に置いてあるバッグからスマホを取り出した。
覚悟を決めたのに、ここでもしも……斎藤さんからの電話だったら全部無駄になってしまう。

どうにかして私に注意をひかなきゃ! でも、どうやって……今、変に声を掛けたら余計に怪しまれる。というか、まずはその着信が本当のところ誰からなのか。
もしかしたら、斎藤さんじゃないかもしれない。

自分の予想が外れていればいい。
そう願った私の耳に聞こえた広海くんの言葉は、何とも言えない思いにさせる。

「【カエル急便】? これ、前のじゃねぇか。休みでも電話くるなんて邪魔だな」

――斎藤さん。

その事実を知っただけで、胸が熱く焦がれる。
電話をくれてるってことは、気にかけてくれてると思っていいのかな。
それだけで、震えそうな身体に力がみなぎる。

涙が溢れそうになるのを懸命に堪えて歯を食いしばる。
広海くんは長い着信に苛立ちながら、拒否ボタンを押したスマホをバッグに放った。

すごい不思議。この前まで、同じようなことをされてるときは怖くて不安で仕方なかった。
でも今は違う。怖くないし、目を逸らすことをしないくらい強くいれる。

やけに心は静かなまま、広海くんと視線を交錯させていると今度はスマホではなく、家のインターホンの音が鳴った。
一度目の音を無視していた広海くんだけど、二度、三度と鳴らされて、渋々ベッドから退く。
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