嘘と正義と、純愛と。
職場に行けば、一度くらい顔を合わせる機会が訪れるかも……なんて淡い期待を抱いていた。
実際、ふたを開けてみれば全くそんな気配もなく、ただ時間が過ぎていく。
今日も相棒は東雲さん。
なんだか最近シフトよく合うなぁ。でも、最初の頃より苦手意識はなくなったかも。
凛と座り、パソコンを操作する東雲さんを横目で見て、自分の気持ちも改めると正面を向き直した。
「すみませーん」
「はい?」
横から話しかけられて顔を向けると、同い年くらいの男の人がふたり立っていた。
もうこの仕事にはある程度慣れてるつもり。だから、このお客さんがどんな用件でヘラヘラとした顔をしているのか大体察しが付く。
「ふたりとも、すごく可愛いですよねぇ」
「そうそう。いつもココ来るたび、俺らそう思ってて」
カウンターに肘を置いて、やたら笑顔を振りまいて話しかけてくる。
こういうお客さんの対応は初めてじゃないけど、そうそうないし、実際どんなふうに対処するのがスマートなのか未だに頭を抱える。
たまに酔っ払いの人も来たりするけど、今みたいに素面の方が助けも求めづらくてやりにくいかも……。
「あ、いえ……そんなことは」
とりあえず謙虚に、でも困った雰囲気を出して答えてみるものの、今回はふたりということもあってかやたら強気みたいだ。
「控えめだねー。そこがまたイイね。ねぇ、今日何時まで?」
「いえ……あの」
「閉店21時でしょ? そしたら22時くらいにはフリーになるよね? その後ゴハンでもどう?」
完全の向こうのペースに負けて、ひきつった笑顔しか返せない。
どうしよう。こんなあからさまなナンパは初めてだ。
あんまりきつい対応すると、逆上してしまうかもしれないし、何より人目が気になる。
どうしたらうまく諦めさせれるんだろう? 気まずい感じになるのも店の印象悪くさせそうだし。
反射的に口角を上げてしまう私を、きっとこの人たちは好意的に受け取ったのだと勘違いしてるんだろう。
そうじゃないのに……でも、うまい解決法が思い浮かばない。
ふと、斎藤さんが頭を過る。
彼が今いてくれたら、きっとうまく交わしてくれるんだろうな。
近くにいてくれたらいいのに……。