嘘と正義と、純愛と。
そんな他力本願で都合のいい願いを心の中で思っていたけれど、実際に斎藤さんは来てくれない。

困り果てた私に構わず、男の人は身を乗り出して話を続ける。

「あ、奥の彼女は後輩? 初々しくてまた可愛いし。ね、よかったら連絡先……」
「I’m awflly sorry.I’m not interested in guys」
「……は?」

ぽかんとだらしなく口を開けた男性ふたりに続いて、私も目を大きくして東雲さんを見た。
彼女は私たちをチラッと見て、クスッと笑う。

「あ。ごめんなさい。つい……」
「あ、いや……すごいな。バイリンガルってやつ?」
「改めて、もう一度言わせていただきますね」

東雲さんは、ニコッと小さく首を傾げると、いきなり私の手を握った。

白く滑らかな手は爪の先まで気を抜いてない、綺麗で可愛い女の子の手だ。
不覚にも、ドキリとしてしまって顔を赤らめる。

「申し訳ないのですが、私“たち”、男性の方に興味ないんです」

……なっ。何を言うの?! 東雲さん!
だって、東雲さんも『遥』って人が好きって……。ん? ハルカなら、女の子の名前でもあり得る? え? 嘘でしょ?
海外(向こう)では、やっぱりその辺り日本と違ってオープンなの?

あわわわ、と今やナンパよりも東雲さんの方が気になって仕方ない。
突然のカミングアウトに、男の人たちも惚けた顔をしてる。

「そういうわけで、お引き取り願えますか? あまり公にはしたくない内容ですし……受付(ここ)、監視されてるんですよねぇ。普通の声の大きさくらいなら聞き取られちゃってて」

東雲さんは笑顔を崩さずにチラッと遠くの天井に視線を向けると、男性ふたりもハッとしてカメラの方向に顔を向ける。

「あ、あー……そうなんだ。それは会社の人に知られちゃ……なぁ?」
「そ、そうだな。あ、じゃあ、お仕事と……その、色々、頑張ってくださーい……」

カメラの効果なのか、はたまた東雲さんの衝撃発言のおかげなのか。
サーッと引いていったお客さんに、ホッと胸をなでおろした。
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