嘘と正義と、純愛と。
改めて東雲さんを見ると、涼しい顔で業務に戻ってる。

助かった……けど、別の問題が……。

チラリと視線を向けても、東雲さんは全く気づいてない。そう思ってたけど、どうやら私がそわそわしていたことをとっくに気づいていたらしい。

「仕事中じゃなかったら、あんな男相手に笑顔なんて見せなかったのに。ああ、まだイライラする」

それこそカメラに拾われないくらいの声で東雲さんはぼやくと、パソコンから私に視線を移した。

「野原さん。仕事中だったからっていうのもわかりますけど、あのままだったらダラダラ絡まれちゃいますよ。笑顔でも上手く突き放すとかして、自分の身は自分で守らなきゃ」
「あ、うん……」

ただ当たり前の助言をしてくれただけなのに、思い当たる節がいくつもあって、うまく反応出来ない。

本当、そういうことだ。
広海くんのことも……今までの自分が、どこか他力本願になっていた結果、こんな自分になってしまったんだ。

今も、心のどこかで斎藤さんを頼ろうとして。
結局まだ、私はなんにも変わってない。

顔を少し伏せて落ち込んでいると、東雲さんが言う。

「あ。野原さん、一応言っておきますけど、私、男性が好きですから」
「えっ」
「その反応だと、やっぱり鵜呑みにしてたんですね。本当、野原さんってイマドキ珍しいくらい純ですよね」

いや、純かどうかは全然わからないけど、東雲さんってつかみどころないし、留学もしてたし、ものすごい信憑性があったからつい……。

目を泳がせて返答を考えていると、彼女がさらに続けた。

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