嘘と正義と、純愛と。
目を点にしたまま動かなくなった私に、至って冷静に彼女は言った。

「兄です。私の」
「えっ。えっ……えぇ?!」
「言っておきますけど、義理ですからね、義理。でも、義兄だからといって誰にでも言えるものじゃないから」

パソコンを元に戻しながら、わざと顔を背けて口を尖らせる東雲さんは、今までに見たことのない彼女で心底驚く。

「野原さんなら……ってなんとなく思っただけです。すみません、聞き流してくださって結構ですから」

動揺を隠すようにツンとした態度で言われるけれど、全然嫌に感じなくて、むしろ可愛いと思ってしまう。
やっぱり、東雲さんって可愛い子なんだなと納得してしまった。

「ううん。なんか、そうやって頑張ってる子が近くにいると、私も頑張れる気がする」
「斎藤さんですか」
「……うん。そう。でも、ハードル高そうで」

すぐに返された言葉に一瞬戸惑ったけど、自然ともう、隠す気持ちにもならない。
それは、今、東雲さんが秘密を教えてくれたからだけじゃなくて、私の中の気持ちがそう固まっていたからだと思う。

色んな事がわからないままだけど、やっぱり私の心は変わってないから。

「前に、あの人のこと怪しいって言ったのは撤回しませんけど、いいんじゃないですか? 好きなら徹底的に調べて、納得するくらいに行動すれば」

そんな私のちょっとした変化に気づいてくれたのか、東雲さんは小さな溜息を吐いて、苦笑した。
それから、正面を向いたまま言葉を繋げた。

「もしかしたら、私の思い過ごしかもしれませんしね」

目は合わなかったけど、きっと気を遣って言ってくれたんだと思うと笑いが零れる。

「うん。ありがとう。東雲さんも頑張って」
「言われなくても、私はもうずっと頑張ってるんです」

その言葉はいつものちょっと勝気な東雲さんで、澄ました言い方だったけれど、それがまた強がっているのを感じて可愛く思えてしまった。

< 120 / 159 >

この作品をシェア

pagetop