嘘と正義と、純愛と。
会社を出て、その足で駅へと向かう。

この時間だと、24時間やってるスーパーじゃなきゃ開いてない。ただでさえ時間ないのに、広海くんの家に行く途中にはそういうお店無いからタイムロスだ。
でも仕方ないし……せめて、何を作るかだけは電車の中で決めちゃわないと……。

ぐるぐると思考を巡らせながら、焦る気持ちで電車に乗り込む。

車両に足を踏み入れた瞬間に、今朝のことがフラッシュバックされた。

溢れる人。ドア付近のスペース。背後に聞こえた低い声。
冷汗が流れそうになりながら、どうにかその場に踏みとどまると、私の気持ちなんか関係なく扉が閉まる。

ギュッと自分の手を合わせ握り、荒い呼吸を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。
目を閉じて、浮かんだのはその時に助けてくれた男の人。

芯の強そうな瞳をして、黒い帽子(キャップ)を被っていた彼。

『助けてほしい時は、デカい声でそう言えよ』

その言葉を思い出すと、不思議と力が出て目を開いた。
顔を上げて、真っ直ぐと前を見る。

あれは別に、『頼れ』って意味じゃないことくらいはわかってる。
もっと言えば、泣き寝入りしようとしていた私に苛々してのことだったかもしれない。

でも、なんだか背中を押された気がして。
それと、〝味方〟になってくれた気がして、ひとりじゃない気がして。

嬉しかったし、今もなんか勇気出た。

ふーっと最後に長く息を吐くと、背筋を伸ばして窓に映る自分を見る。
そこに映っているのは、嬉しそうな顔をした女の子ではなくて、まるでこれから戦いにいくような、泣きそうな顔をした自分だった。

駅を降りると、小走りで広海くんのアパートとは逆方向のスーパーへと向かう。
こういうことは、稀じゃない。
結構頻繁にあるし、そんなときに、ふと、なんでこんなことしてるんだろう?って過ったりすることもある。

だけど、すぐに思考はこう行き着く。

それでも、誰かに必要とされてる感じが嬉しいし、そんなふうに欲してもらえる唯一の(ひと)かもしれない。

そう思うだけで、大事に思うし、出来る限りその彼に応えてあげたいって動いてる自分がいる。

元々自信なんてない人間だし。
お姉ちゃんのようにしっかりもしてないし、東雲さんのように特技のようなものもない。
だから、広海くんみたいな人がそばにいてくれるなんて奇跡みたいなもので……。
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