嘘と正義と、純愛と。
「お父さん! どうしたの? 珍しいね」
「お前らこそ、揃ってるのは珍しいな」
「茉莉も今、帰ってき……」
「私も今帰ってきたばかりなの。お父さん、また戻るんでしょ?」

お姉ちゃんの言葉を遮って言うと、ふたりとも目を丸くして私を見た。
たぶん、それぞれの驚いてる理由は少し違うんだろうけど。

お姉ちゃんは、私が言葉を被せて前に出たからだと思う。いつも、お姉ちゃんに代弁してもらっていたのが常だったのに、そうしなかったから。
お父さんは、きっと、会社に戻ることを先読みされてびっくりしたんだ。

「ああ。ちょっと、確認したいものとか諸々あって……それが終わったらもう一度会社に戻る」

私に返答したお父さんは、そのまま二階の書斎へと向かっていく。
残された私とお姉ちゃんは、無言で階段を上るお父さんを見送ってその場に立っていた。

先に顔を戻したのはお姉ちゃん。

「なんかあったの?」
「……社員が横領とかなんか色々してたっぽい」
「えっ。それは大変ね。でも、どこでもあるのね、そういうの。たぶん、うちの院内でも突けば出てきそうなものだわ」

腕を組んで溜め息を吐いたお姉ちゃんは、くるりと身体を回して階段に足を掛ける。
私も後に続いて階段を上ろうとすると、前がなかなか進まないからおかしいと思って顔を上げた。

「なに?」
「ううん。茉莉だよなーと思って」
「なにそれ」
「だって、あんなふうにハキハキものを言ったりすることなかったじゃない。だからなんか今日の茉莉は別人みたいだなーっていうか」

お姉ちゃんは私を見下ろし、まじまじと顔を見ながら首を傾げる。

自分でも信じられないけど、自然とそういうふうにできてる、私。
練習したわけでも、心がけてるわけでもないはずなのに。
きっと、自分の中に〝目標〟が出来て、そのために強くなるってどこかで気を張ってるからそんなふうに思われるのかも。

自分で自分を分析して、ふとお姉ちゃんを見上げ、笑った。
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