嘘と正義と、純愛と。
それを上手く通訳してくれたようで、お客さんは陽気に手を振りながらエレベーターへと乗って行った。
私が笑顔で見送ると、隣の東雲さんがカタンと椅子に腰を下ろして言う。

「野原さん、なんかありました? 前と少し雰囲気違うっていうか」
「え? どんなふうに?」

エレベーターが上昇して見えなくなるのを確認すると、私も席について東雲さんを見た。

「まぁ仕事に関しては前から丁寧な感じはしてましたけど、それ以上っていうか……。あ、あと、クレーム対応とかも毅然としてるような」
「ええっ? そ、そう? うーん……でも、そうだとしたらうれしいなぁ。東雲さんみたいな人にそう言ってもらえると」

自分なんか敵わない、すごいなぁって思う子に褒められるって、素直にうれしいものだな。
そんなふうに彼女を受け入れられたきっかけも、やっぱりあの人がなくてはならない存在だった。
……今、どこで何してるのかな。

「私なんて。別に、誰も見てくれてませんし」
「誰も、って。そんなことないじゃない。事務所の人も、営業の人も東雲さんのこと可愛いって……」

気を遣ったわけじゃなく、本当にそうだと思うし、事実そうだから答えたけど、東雲さんの反応がいまいちだ。
それこそ、彼女の様子がいつもと少し違う気がして、顔色を窺った時。

「野原さん、今日、ラストまでですよね?」
「え? あ、うん」
「じゃあ、飲みに行きましょう」
「えぇっ?」
「もちろん、割り勘で」

淡々と話を進められ、すぐにその話は終わったけれど、東雲さんが冗談なんていうはずないだろうし、これは本気なんだなと悟って受け入れた。

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