嘘と正義と、純愛と。
その時、初めて彼女の本心に触れた気がした。
私には無いものを持つ東雲さんを羨望の眼差しで見ていたけど、容姿や知性を兼ね備えてたって、その人の人生が必ずしも充実してるとは限らない。

軽く唇を噛み、苦しそうな表情の東雲さんは、ビールを見つめてる。
こんな浅い関係の先輩()を飲みに誘うくらい、なにかあったに違いない。

「私も、ひとりは嫌だった。誰かに私の存在意義を生み出してもらわなきゃ、立っていられなかった」

ひとりだと自覚するのが理由もなく怖くて。
そうしてあんなふうに、知らず知らずのうちに閉鎖的な世界に飲み込まれていったんだ。

でも、だからって受け身で一生いるわけにはいかないってわかった。
たとえば、今もこうして普段関わろうとしなかった後輩(彼女)に踏み込もうとすることも大事なんだろうって思うようになった。

広海くんもそう、会社でもそう、家族でもそう。
あのままだったなら、あれ以下はあっても、それ以上は望めなかった私の人生。
だから、自分から踏み出す勇気と、ほんの少し、ひとりでも立っていられる強さを持つように頑張ろうって決めた。

「でも、もうダメなんです。私、きっぱりと振られたんです。もう目標もなにもなくなったんです」

突然の告白に目を大きくしてしまった。

振られたって、例のお義兄さんってことだよね? 告白したんだ、東雲さん。それってどれだけ勇気のいることだっただろう。

「可愛い妹って自慢になるように努力して、英語だって、遥の仕事のサポートになるかと思ってしたことだけど……無意味。ぜーんぶ、無意味!」

東雲さんはヤケになるように残りのビールを勢いよく飲み干すと、乱暴にグラスを戻した。
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