嘘と正義と、純愛と。
ぼんやりと前方に並ぶおじさんの足元を見つめながら、延々と思考を巡らせる。

会社に行って。着替えて、持ち場について。
先輩の顔色窺いながら、お客さんにも気を遣って。ときどきクレーム処理にも当たることあるけど、今日はどうだろう。私のところに来なければいいな。

あと、数か月前に入ってきた新しい子。
あの子、可愛いんだけど、ちょっと苦手なんだよなぁ……。

大したことでもない日常を思い浮かべながら、さらに少しずつ暗い奥底へと落ちていく。
でも、こういう感じって、今に始まったことじゃない気もするから。

もっともっと前から。小学生くらいのときから、特に楽しい毎日だなんて感じた記憶もないし。ずっと平坦とでもいうか。
そう考えたら、私ってなんてつまらない人生なんだろう。いや、なんてつまらない人間なんだろう。

大体流されて生きてきた感するし、自分の意見を持って実行するほど、強く何かをしようとしたこともない気がする。

……ああ、朝からなにを考えてるの、私は。

鬱々としているうちに、目の前に風を切ってやってきた列車が止まった。
前の人について、すでに混み合った車両になんとか体を押し込んだ。

身長157センチの私は簡単に人並みに飲み込まれてしまって酸欠状態。
ほとんど視界も遮られて、疲れることこの上ない。

お気に入りの服も皺になっちゃうし、ドライヤーだけでなんとかセットした髪だって一瞬でその苦労が水の泡。

カバンを前に抱くようにして、身を竦めるように堪える。
あと3駅……ちゃんと降りれるかな……?

今、自分が立っている位置は決して扉から遠くはないのだけど、隅の方へ追いやられて出口に背を向けた状態だから、うまく移動できるか不安になってしまう。

せめて向きだけでも反転したいな。

そう思った時だった。
ぞわりと寒気のする気持ち悪い感触がして、鼓動が速まる。
気のせいかもしれないと息を止めたけど、この吐き気のするような感覚は、確実に〝故意〟だと悟ると一気に怖くなった。
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