嘘と正義と、純愛と。
「オイ、覚えておけ。次、同じことしたらタダじゃおかない」
低く凄む声を出した彼は、次の駅に止まってすぐ降車し駅員さんに痴漢を突き出した。当事者の私ももちろん一緒に付き添っていたのだけれど、ほとんど何も言えずに黙って彼の横に立っていただけ。
痴漢騒動が一段落してほっとするものの、私は身体に触られていた不快感が残っていて懸命に気持ちを切り替えようと目をきつく閉じた。
すると、通行人の肩がぶつかって身体がよろける。瞬間、逞しい腕に支えられた。
はっとして目を開け、背中に手を回してくれている彼を見上げる。
目深に被った黒いキャップから、さっき痴漢から助けてくれた際には見る余裕がなかった彼の瞳が一瞬見えた。
力強い、目――。
「あ、あの……」
そうだ。まずはこの男性にお礼を言わなければ。
だって、痴漢から助けてくれる人なんてそうそういないし、助けてくれたこの人だって、どんな形で巻き込まれるかもわからないのに。
「す、すみませんでした……」
身を竦めながら、さっきの事件でカラカラの喉から声をようやく絞り出す。
そうまでしてやっと出た言葉は、お礼というよりも謝罪だ。
彼の顔は、もう見れない。
なんか近すぎるし、助けてくれたってことは、いまさらだけど痴漢に遭ってたのに気付いてたってことだろうし。
恥ずかしいような情けないような、そんな感情が入り乱れて、まともに顔なんか向き合わせられない……!
低く凄む声を出した彼は、次の駅に止まってすぐ降車し駅員さんに痴漢を突き出した。当事者の私ももちろん一緒に付き添っていたのだけれど、ほとんど何も言えずに黙って彼の横に立っていただけ。
痴漢騒動が一段落してほっとするものの、私は身体に触られていた不快感が残っていて懸命に気持ちを切り替えようと目をきつく閉じた。
すると、通行人の肩がぶつかって身体がよろける。瞬間、逞しい腕に支えられた。
はっとして目を開け、背中に手を回してくれている彼を見上げる。
目深に被った黒いキャップから、さっき痴漢から助けてくれた際には見る余裕がなかった彼の瞳が一瞬見えた。
力強い、目――。
「あ、あの……」
そうだ。まずはこの男性にお礼を言わなければ。
だって、痴漢から助けてくれる人なんてそうそういないし、助けてくれたこの人だって、どんな形で巻き込まれるかもわからないのに。
「す、すみませんでした……」
身を竦めながら、さっきの事件でカラカラの喉から声をようやく絞り出す。
そうまでしてやっと出た言葉は、お礼というよりも謝罪だ。
彼の顔は、もう見れない。
なんか近すぎるし、助けてくれたってことは、いまさらだけど痴漢に遭ってたのに気付いてたってことだろうし。
恥ずかしいような情けないような、そんな感情が入り乱れて、まともに顔なんか向き合わせられない……!