嘘と正義と、純愛と。
傍観するように、未だに楽しそうに笑い合うふたりを見て、自分の感情を分析する。
彼氏の浮気を目の当たりにした不運に、えもいわれぬ不安が初め襲ってきたけれど、今は全然違う。
さっきまでの動悸が嘘のように落ち着いて、客観的に自分を見ているような……。

〝諦め〟と〝放棄〟。
そのふたつが、何の抵抗もなく私の中で湧いて出て、不都合な感情を消化してくれてる。

でも、ひとつだけ。

私の居場所って……どこ?

心の中で呟くと、瞬時に足元がまっ黒になっていて、まるでエレベーターが急降下するようなぞわりとした感覚が私を襲った。
その時、正面にいた広海くんと女の人が、身を寄せ合ってこちら側に歩いてくるのに気が付く。

一度落ち着いた心臓が、再び暴れ始める。

ど、どうしよう! 早くここから逃げなきゃ……!

周りには人が溢れてるし、建物があっても行き止まりなわけでもないんだから、逃げる場所はいくらでもある。
だけど、人間って不思議なもので、咄嗟のことになるとどう動けばいいのかわからなくなって、判断が鈍る。

もたもたとしているうちに、どんどんと広海くんは私の方へと近づいてくる。
今は隣の人との話に夢中で気付いてないかもしれないけど、いつ、顔を前に向けるかわからない。

あと数十メートル――まずい。
ここで鉢合わせしたら一体どうなるんだろう? 広海くんは慌てるかな……いや、存在すらなかったように、目も合わせてくれないかも……。

そう思うだけで、結局足が張り付いたように動かない私は、固く目を閉じて全てを神様に任せた。

「こっち」

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