嘘と正義と、純愛と。
今日、これから私は勇気を出して、この関係を清算しようと思う。
それだけは心に決めたんだけど、具体的な計画とか、うまくいく自信とかが全くない。

思いつめた表情で、電話帳に登録している、あの番号を探し出して表示させた。

「お疲れ様です」

背後から声を掛けられた私はバッとスマホを胸に押し当てて振り返る。
顔を上げると、そこには鞄を片手に斎藤さんが立っていた。

「さっ……! あ、お、お疲れ様です」
「今日は自宅に帰るんだ?」
「えっ」

声を掛けられた時はビジネスライクだったけど、今はあの、電車や街中で会った時の彼の話し方だ。
周りに誰もいないことを知っていて、この人は使い分けているのかもしれない。

それよりも。

「ど、どうして……?」

自宅に帰る……って、なんで突然そんなこと言うんだろう。
確かに〝なにもなければ〟今日は真っ直ぐ帰っていたと思うけど。

すると、斎藤さんは東雲さんを前にした時とは違う、少し野性的な笑みで私を見下ろした。

「簡単だよ。こんな時間までいて、ゆっくりしてるし。大体、前みたいな焦った顔してないし」

口の端を吊り上げ、自信のあるような声色で言われた私は、あまりに簡単に言い当てられてカッと顔を赤くする。

私って、そんなにわかりやすい行動とか表情とかしてるのかな。
後者に限っては、仕事にも影響しそうでなんかこわい。

「でも、なんかちょっと様子おかしい気もするけど……」
「え! そんなことないですよ。私、いつもこんな感じだと思いますけど」

内心ヒヤヒヤとしながら平静を装って返すと、斎藤さんは顎に手を添えて私をジッと見つめる。
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