嘘と正義と、純愛と。
「おはようございます、野原さん」
持ち場にすでについていた私は、その女性特有の可愛らしい声に顔を上げた。
見上げると、自分と同じ制服なのに、まるで違って見えるくらいに今日も可愛い後輩の姿。
「東雲さん、おはよう」
綺麗に巻いた艶のある髪を肩下で揺らし、色白の小さな顔の中には、お人形のように大きな目と小さな鼻と口。
同じくらいの背格好だけど、出るとこは出てるし、年上の私よりもどこか色気を感じる東雲さんは、今年の春に入社して来た子だ。
日本国内だけではなく、海外にも数店舗デパートを構える東雲グループ。
総従業員数は2万人超えという大規模な企業。
そして、東雲さんはその名前の通り、東雲グループ社長のご令嬢らしい。
私の仕事は、その中の新宿にある店舗の受付嬢。
初めはなんとなく。父親からの紹介に、制服カワイイな、とかミーハー心から飛びついた求人だった。
けど、蓋を開けてみたら想像していた華やかな世界とは違っていて。
それでも他に目標も見いだせないまま、ここで作り笑顔を浮かべて日々生きている。
「あ、もう拭いたから……」
後ろの棚の扉の下にある掃除用具に手を伸ばしかけた東雲さんに言うと、彼女はにっこりと微笑んで首を僅かに傾げる。
「すみません。ありがとうございます」
そういうの、きっと男の人なら一発でやられるやつだよね。
上目遣い、可愛い角度、小さな手を合わせる仕草。
私は彼女のことを嫌いになるほどまだ深く関わり合ってはいないけど、たぶん、ちょっと苦手に感じてるんだと思う。