嘘と正義と、純愛と。
「悪い。言いすぎた」

頭上に響く声に、何度も首を横に振る。

「ごめんなさい。やっぱり私、ひとりじゃ何にもできなくて、結局助けてもらって」
「だから! 何回言えばわかるんだ? 助けて貰えって言ってるだろ。ひとりで出来ないことだって世の中にはあるんだよ!」

斎藤さんの胸の中で叱られて、ますます私は落ち込んだ。
謝っても謝っても、きっと周りの人はイライラとするだけで、なんの役にも立ててないんだ。

鬱陶しがられる人間だって、自分なりにわかってるつもりだけど、なんでこの人は怒ってまで助けてくれるんだろう? やっぱりコンサルタントだから? 困ってる人を助けたい気質なの?

「どうして、こんなことしてくれるんですか」

そんなことを聞いて、何を期待してるの?

もうひとりの自分が胸の中でぽつりと漏らしたけど、私はそれを聞こえないふりをした。
『この人の特別だと思いたい』だなんて、大それたこと思っちゃいけない――。

スマホの画面のあの文字を思い出しながら、彼の返答を待つ。

「電車の時もそうだった。ただ、助けたくなった……君を」

背中に回されてる手が、心なしか少しきつくなった気がした。

「だから、もう『ごめんなさい』って言うな」

耳元で諭すように言われ、ドキッとした。
それはときめきとかそういう類の心音というよりは、また別の……。

私の口癖みたいなもの。
『ごめん』と謝れば、それ以上悪い方向には転がらないだろうと思ってるから。

きっと斎藤さんは、事あるごとに謝ることを指摘したんだと思った。
本当はわかってる。謝ることと同じくらい、伝えることは他にもあるということ。
だけど、なかなかそんな余裕もなかったから。

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