嘘と正義と、純愛と。
メガネの存在がないから、ここまで深いキスが出来るようになったのかな……なんて、冷静な時なら考えられたかもしれないけど。

まさかこんな求められるようなキスだなんて覚悟もしてなかったから、思考も途切れ途切れで酸欠気味になってしまう。
静かで狭い空間の中に漏れる声は、まるで自分のものではないようで、余計に身体を熱くさせた。

カクッと腰が抜けると、斎藤さんは少し驚いた目をして私を支える。
恥ずかしくて顔を背けた私に、彼は耳に唇を寄せた。

「甘やかされるの、嫌?」
「……っ、い、嫌とかそういう問題じゃ」
「俺と居たいの? 居たくないの?」

その質問の答えに迷いはない。
でも、それを口に出していいものかと迷ってしまう。

斎藤さんは押し黙った私から手をするりと解き、メガネをかけるとフイッと顔を背けてボタンに手を伸ばす。
『開』ボタンに指を掛け、押す直前に、ちらりと目だけを私に向けて言った。

「女の強がりは行き過ぎると滑稽」

突き放された気がしてしまった。
真顔で言い放たれ、迷わず扉を開き、そこをすり抜け一歩踏み出してしまう。
その彼の背中をスローモーションで見えてた私は、頭で考えるよりも先に、足が動いてた。

「……なに?」

そう聞かれて初めて気づく。
私の方から斎藤さんの腕を捕まえてることに。

「っあ……」

正気に戻ると手の力を緩め、再び迷いが生じてしまった。
だけど、この手を離したら……。

今の私は迷子になってしまいそう。

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