嘘と正義と、純愛と。
そうして左隣の空いた席にメニューを広げられて、私は自然とそこへ座ることになった。

考えたら、広海くんとこういうお茶を飲むようなお店に来たことって数えるくらいだった気がする。それも、付き合う前と付き合いたての頃とか……。

そんな過去を思い返すと、苦しいことまで思い出してしまって頭を軽く横に振った。

「決まった?」
「えっ! あっ、えぇと、アイスコーヒーを」
「俺も。ここのアイスコーヒー美味しいんだ」

他のことに気を取られて、メニューをちゃんと見てなかった。慌てて上部に書いてたアイスコーヒーを注文したけど、それを聞いた斎藤さんがまるで子どものように自慢気な反応を返してきたからどこか可愛く感じた。

アイスコーヒーが運ばれてくる間は終始無言。
そして、さっき入り口で出迎えてくれた店員がグラスを目の前にふたつ置いて行くと、斎藤さんは大きな手でロンググラスをすっぽりと包み込み、アイスコーヒーを口にした。

私は添えられた小さなミルクピッチャーに入ったミルクを注いでいると、隣でカランと氷が崩れる音がして目を向ける。

「いつから?」
「はい?」

アイスコーヒーに視線を向けたままの彼が、突然聞いてくることに目を丸くする。
斎藤さんは、涼しい店内と冷たいアイスコーヒーで落ち着いたようで、汗もいつの間にかひいていた。

「こういうことは、いつから? 別れた日からか?」

さ、斎藤さん、気づいてる……?!

その言葉の端々に、当事者の私は思い当たることばかり。
もしかして、今猛ダッシュで走ってきたのは、私がやっぱり誰かに尾けられてるって知ってたからなんだ。

「あの、あなたは本当に……」

『ただの、コンサルタントですか?』と口にしようとして言葉を止めた。
不自然に言葉が途切れてしまったから、何か続けようと考えるけどいい文句が浮かばない。

斎藤さんはジッと私を見つめてから小さな息を吐く。
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