嘘と正義と、純愛と。
頭の中で斎藤さんとのキスを反芻していると、遠くからガタッと物音がした気がして我に返る。

なんだろう……? 上から聞こえた気もするから、斎藤さんかな?

天井を見上げて不思議に思いつつ、斎藤さんを待たせているのだと思い出して冷蔵庫から飲み物を慌てて取り出す。
お茶とグラスをトレーに乗せて電気を消すと、急いで部屋へと戻った。

両手も塞がってて、階段の電気も点けられない。
さっきは目が慣れてからそのまま下ってきたけど、今はキッチンの蛍光灯を消した直後だからまだ周りがあまり見えない。

そろりと一歩一歩確かめるように階段を探って上って行く。二階までたどり着いてようやく足元から顔を上げると、そこに人影があって声を上げてしまった。

「きゃっ……あ。さ、斎藤さん……?」

なぜ、そこに? やっぱりさっきの物音は斎藤さんだったのかな。
心臓がバクバクと騒いでるけど、なんとか手にしているグラスは落とさずに済んだけど。

「あ、ごめん。ちょっと遅かった気がして様子見に行こうかと」

斎藤さんにそう言われて、自分が今キッチンでキスを思い返していたことを思い出して顔を赤くした。

「あっ、ご、ごめんなさい! お茶のほかにも何かいるかとか色々考えて、それで結局なんにもなくて」

なんて、苦しい言い訳、やっぱりバレちゃうかな?

そんな緊張をしながらも、言った言葉は取り消せないし! 廊下が真っ暗なのがせめてもの救いだから、早いところ赤らんでる顔をどうにかしなくちゃ。

『落ち着け落ち着け』と心の中で何度も繰り返す。

テンパッている私とは違って、終始落ち着いた雰囲気の斎藤さんは、ひょい、とトレーを私の手から奪い取る。

「わざわざありがとう。俺が持つからドアを開けて」

薄暗い中でも彼が微笑んだ顔がクリアに見えた気がした。
今だ落ち着かない気持ちでドアを開けると、斎藤さんが部屋に入ってテーブルにトレーを置く。私はその姿を見ながらドアを閉めた。
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