嘘と正義と、純愛と。
広海くんは私の絶対的存在だったから。
それは単に支配されているだけじゃなくて、そこに確かに存在意義を投影するために依存してた。
それが自ら望んだとはいえ、崩壊した世界では、正直笑える余裕もなかった。

広海くんとは歪んだ関係だったけど、それでもとりあえず私はひとりじゃないと思ってた。
それが、完全に、私はこの世界でひとりなんだと、心が闇の世界を彷徨うところだった。

でも、そうならずに済んだのは、光が射したから。
手を、差し伸べてくれる人がいてくれたから。

「でも、あなたのことを、信じたいって思えたから」

確かに、斎藤さんのことはわからないことが多すぎる。
そうだとしても、〝ここ〟に連れてきてくれたのは紛れもない事実だ。

こんな重い告白、迷惑がられるだけ。
そうは思っても一度話し出したら止まらなくて、最後まで言ってしまった。

すると、斎藤さんは俯いたまま口を開く。

「あんまり、そんなバカ素直に生きてると、絶対どこかで傷つくぞ」
「そう、ですね。だけど、それ以外に自分の存在を確立する方法を知らないから。誰かを信じてついて行って、その目に映し出して貰えたら」

そんなことでしか、存在価値を見いだせないまま――。

自分も相当歪んでると失笑した時に、下を向いたままの彼が徐にメガネを外した。
カラン、と少し雑にテーブルへメガネを置く斎藤さんの表情はまだ見えない。

観察するように、一秒も目を逸らさずに視線を向けていると、ゆっくりと彼の顔が露わになってくる。

目元が前髪で見えない状態で、斎藤さんは続けた。
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