Someday ~私がいた夏~
 夕食のあとは、みんな思い思いに時間を過ごす。宿題とか、おしゃべりとか。
私はいまだに、他の寮生に心を開けないまま1人で音楽を聴いていた。
 歌詞の1つ1つが全て康紀さんにつながっていくような気がして、切ない気持ちになる。

「……さん、いらっしゃいますか?」

 誰かが呼ばれているような気がしてそっとイヤフォンをはずす。

「石原さん、いらっしゃいますか?」

「あっ、はい。」

「お電話です。」

「はい。」

 私は音楽を止めて、玄関脇にある公衆電話へと歩いた。


「もしもし?」

「あ、桜ちゃん?俺、武田だけど…。」

「あっ、あ~…こ、こんばんは。」

 予想外の出来事に、一気に心臓が暴れだす。

「ごめんな。どうしようかって迷ったんだけど、手紙書く時間ないし電話しちゃったよ。」

「すみません。」

「君が謝らなくても」

 笑い声を含んだ優しい声。とげとげした鎧が溶けてしまいそうになる。

「なんて言っていいかわかんなくて。」

「そっか。 あのさ、話があって。」

「あ、はい?」

「今度の週末さ、めずらしく休み取れたんだ。で、また友達のとこに遊びに行こうかと思って。」

「友達って、大学の?」

「そうそう。もし時間ありそうだったらさ、またお茶でもしないかな?って。」

「えっ?いいんですか?」

「桜ちゃんさえ良ければね。」

「もちろんですよ!すごく嬉しいです。」

 自分でも顔が赤くなってるのがわかるくらい熱くなった。

「じゃあ、土曜日の2時にバスセンターの前でどう?」

「大丈夫です。た、たのしみにしてますね。」

「うん。それじゃ、そういうことで。急に電話してごめん。」

「いえいえ、ありがとうございました。」


 私は、しばらく受話器を持ったまま動けなかった。

 週末、康紀さんに会える…。そのことがとても幸せなことに思えて、1人でにやけてた。


 
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