Someday ~私がいた夏~
 毎日グレイだった景色が、だんだん色づいてくる。退屈で仕方なかった授業も、真剣に受けることができた。

 全ては土曜日のため…なんて言ったら大げさかな。


 昼休み、いつものようにお弁当グループのクラスメイトとたわいもない話で盛り上がってる。普段だと話半分でしか聞かないのに、今日はつい引き込まれてしまう。

 と言うのも、クラスの彩ちゃんの彼氏が話題になっていたからだ。噂によると彩ちゃんの彼氏は社会人らしく、デートもクラブ、ドライブ、彼の家にお泊まりとか…16歳の私たちにとってはものすごく大人な感じらしい。
 たしかに、彩ちゃんてどこかクールな感じでクラスでも一歩引いた落ち着いた存在だし。いい意味の一匹狼的立場にいる。

「社会人かぁ…。」

 心の中でつぶやいたつもりだったのに、気がつくと声になっていた。にぎやかな教室のおかげで誰にも聞こえなかったみたいだけど。


 午後の授業は、さすがに少し眠い。ちっちゃくあくびをしながら窓のほうに目を向けると、視界の中に彩ちゃんが入ってくる。天然のほんのりと茶色がかった髪、気だるそうに視線を宙に向けている。やっぱりどことなく大人の世界を知ってる、私とは違う雰囲気。
 
 やっぱり、大人と付き合うと彩ちゃんみたいな感じになるのかな?

 ほとんど授業は上の空で、ぼんやりとやり過ごした。


 放課後、いつもなら誰かを見つけて一緒に下校するけれど、今週は掃除当番だったから1人で帰ることにした。

 戦前からの歴史ある学校だからとはいえ、この薄暗い下駄箱はイマイチ好きになれない。足早に出ようとした時だった。
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