春色最中のコンチェルト
悲しみよりも怒り。

失望。

せっかく東京の高校に来て東京の大学を受けたのに。


だって落ちたら、落ちたら───。

携帯─いまだにガラケーの─が震えた。


「もしもし」

『あ、最中?』

「祐介…」


自分の名前が昔から嫌いだったが、彼氏の祐介に呼ばれるのは好きだった。


『声やばいな、どした?』

「落ちた」

『落ち…え!?』

「…落ちた。大学」


自分の声が信じられないほど低い。

電話の奥の祐介はどんな顔をしてくれているのだろう。

『まじか……こんな時に言うのもなんだけどさ』

「え?」

『俺ら、別れない?』


「………………は?」


オレラワカレナイが変換できない。

何だっけ、あれか。

最近話題のリズムネタ。


『やっぱ俺ら合わないような気がしてさ』


今、やっと理解できた。

俺ら別れない?、か。

ああスッキリした……と思いかけて、


「何言ってんの?」

『え?』

「合わないって、え?何が?」

『えー、だから…その、気が』


そう、気が。そうですか。

沸々と怒りが湧いてくる。

何だコイツ。

一年以上付き合って、最後の理由はそれか。


「あんたがそう思うならそうすれば」


随分、冷たい声が出たなと思った。


『あーやっぱり?じゃあ…今までありがとな。まぁ…お前も色々頑張れよ』


ブツッと通話が切れた音。

< 2 / 19 >

この作品をシェア

pagetop