春色最中のコンチェルト
部屋の鍵を開けて、リビングのラグの上に座る。


最後に会ったのはいつだったかな、と思いを巡らせる。

確か…卒業前の、制服デート。


カフェのテラスでお茶して、沢山話して家に帰ったんだ。

祐介はコーヒーとガトーショコラ、私はキャラメルマキアートとシブースト。


あれは割り勘だった。


というか、いつも金欠状態の祐介に奢ってもらうのは気が引けて、一度奢って貰ったっきりずっと割り勘だった。


何なんだ。

こんな気が利く彼女にそんな別れなんて酷すぎる。

一度だけ六百円のランチを奢っただけで、誕生日プレゼントさえろくに渡さなかったくせして。


「私の価値は六百円か!」

ラグの上でドンドンと地団駄を踏む足音が響いた。


それでも怒りは収まることなく煮えたぎっている。

ガラスのテーブルを睨み付けていると、またもや着信音が鳴った。


「もしもし!」

ついつい返答も乱暴になってしまったが許して欲しいところだ。


『あっ最中!?』

「…繭?」


大学は推薦入学の繭だ。

何で今なのよ、と勝手な思いが頭によぎった。

今は繭にだけは関わりたくなかったのに、とも。


「すごい焦ってんじゃん、何?」

声だけは平静を装えているはずだ。


手の力は毛布を握り潰す勢いだけど。


『ちょ…祐介くんの彼女がリホってどういうこと!?』

「あ?」

しまった、これじゃ不良だ。

『祐介くんがリホを俺の愛する彼女でぇすってツイッターにアップしてんのよ!』

「あぁ…」

『あぁって、最中!』

「だって別れたの、仕方ないじゃん」

『え、は?』

「さっきフラれたの」

『最中っ、だってそんなのっ…』

「ごめん、繭。もう切るわ、じゃあね」

『えっちょっ最中』


一方的に電話を切った。


姉さんのお下がりパソコンをネットに繋ぎ、ツイッター画面に飛ぶ。


「…ある。」


確かに、あった。

デマを期待してたのに。

でも元々繭は嘘をつかない子だ。


またパソコンを強制的に閉じ、ゴロンと寝転がる。


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