春色最中のコンチェルト
柳さんとこの青磁くん、というのは。

いわゆる腐れ縁であり。

私の不運の元凶だ。


つまり私の実家である京都の甘味処兼簪屋《ふうわり》は、旅館の《風柳》とご近所さんなのだ。


「せ、青磁くんが来るの!?」

あの鬼のように無口で睨みが怖い青磁くんが!


『そうよー。そんな慌ててどうしたんよー』

「どうしたもこうしたもあらへん!」


青磁くんが、来る…?

想像したくない。


『あんた昔、せーじくんせーじくん言うてお節介ばっかしてたやないのよー』


「それとこれとはちゃうの!昔は昔!今は今やねん!」


そう、昔のことだ。

青磁くんは無口なだけに誤解されることが多くて、対照的にお喋りな私は彼を心配してよく後をついて行っていた。


『せやけどなぁ、懐かしいわー。最中、青磁くんのおトイレまで…』

「わあああっ!」


ちゃんと用を足せるのか心配するあたり、私はお節介すぎる。


そんな黒歴史なんか葬り去った、はずだった。
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