春色最中のコンチェルト
「母さん!やめて!くれっぐれも誰にも言わんといてよ!?あかんよ!?」

『せやね、覚えとくわぁ』


本当かよ!と突っ込みたい所だが、言ったところでこの人は直らない。


「分かったから、母さん。そろそろ切るわ」


また一方的に電話を切る。

…デジャヴか。

昨日といい今日といい、全く何なんだ。


それに、青磁くんはいつ来るのだろう。


関西弁使ったの久し振りだな。

焦ったりしたら出るのは変わらないけど───と思考がまとまらない。


取り敢えず二度寝しよう、といつもの簡易ベッドを出したとき、インターホンが鳴った。


「ああもう!」

バサッと布団を投げ、インターホンの受話器を取る。

「はい!どうぞ!」

訪問者の声を聞きもせず解錠ボタンを押した。


どうせ宅急便くらいしか来る人いないのに。

祐介も来ない。

誰も来ない。

悪かったな独身で!

そんなひねくれた考えがそうさせたのだ。 


それから間もなく玄関チャイムが鳴った。


判子だけ持ってガチャリとドアを開け、


「無用心だな、最中」


後悔した。




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