春色最中のコンチェルト
「青磁くん、何で…」

「…最中の母さんと俺のお袋に頼まれた」

「…いや」

聞きたいことはそっちじゃない。


「何、その…姿」


悔しくもサラサラ美黒髪だった髪は銀髪。

長めの前髪がカッコいいのが腹立たしいけど。

目は元から澄んだ茶色だったから良いとしよう、でも。

「えと…姿って」

「変わりすぎだろう!!」


ボケッとした所は変わらない気がするが、しかし。


「何で」

「まぁ…取り敢えず引っ越し準備しよか」

「は?」

「最中…約束、忘れた訳ちゃうんやろ?」 

「そうだけど、でも私はっ」

「約束破った方がややこしくなるの分かってるやろ?最中の父さん頑固やって」


分かってる。

娘だからこそ父親の性格なんか分かってる。


「じゃあ始めんで」


俺、家具とか食器とかカーテンやるな。

そう呟いて青磁くんが作業に取りかかる。


私は唇を噛むしかない。


せめて一度は帰らなくてはいけない。


帰るだけ。説得しに行くだけ。


そう自分に言い聞かせ、きっかり三年分の荷物を片付けた。
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