テンポラリー・ジョブ
「なぁ・・・知恵、こっちに来て座ってくれないか? 話したいことがあるんだ」

大輔が真顔になって、和室の部屋で正座をした。

知恵は、かしこまった大輔の姿を見た。

知恵は、向こうから妊娠のことを尋ねられたら、今まで気を使って悩んでいたことが解決できる。そう言ってくれることを期待しながら正座をした。

不思議だが、大輔の顔を見ると胸が高ぶってきた。

「・・・」
「・・・」
二人の間に沈黙があった。

「なぁ、知恵・・・」
大輔が口を開いたが言葉につまった。

「はい」
知恵も緊張して返事をした。

「実は・・・」
大輔は緊張した。

「何・・・? 」
知恵は、少しじれったくなった。

「実は、三日前、上司から、九州の工場に行けって辞令がおりたんだ。それもエンジニアじゃなくて、工員として」

「えっ!」

知恵は、期待していた言葉ではなかったことに驚きの声を出した。

大輔は、知恵の驚く表情をみて、自分の素直な気持ちを言おうと思った。

「俺、エンジニアっていう仕事が好きなんだ! これからも続けて行きたいんだ! 今の会社に自分の居場所がないのなら、辞めて他の会社に行こうと思っている。だから、明日、会社に辞表を出そうと決めている」

「・・・」

「生活の心配なんかもあるかもしれないけど、おまえも働いていることだし、少しぐらいは余裕があるだろう。それに、なるべく早く次の勤め先を見つけるから、辞めることを許してくれないか?」

大輔は知恵に頼みこむように言った。

「えっ!!」
再び、知恵は驚きの声を出した。

今度は、大輔が会社を辞めることの驚きだった。


< 27 / 51 >

この作品をシェア

pagetop