テンポラリー・ジョブ
大輔は、知恵が洗面台にしゃがみこんでいる後ろ姿を見て、以前もこんなことがあったことを思い出した。

その瞬間、知恵の妊娠を直感した。

「知恵・・・お前・・・ひょっとすると・・・」
大輔が知恵の背中に向かって尋ねた。

知恵は振り返って立ち上がった。

「出来たのか?」
「えぇ・・・」
知恵は照れながら答えた。

「もうすぐ四ヵ月目になるの」
知恵がにこり笑った。

「四ヵ月って・・・いっからわかっていたんだ!?」
大輔が驚いた様子で尋ねた。

「一ヵ月前から・・・」
「い、一ヶ月前! どうしてすぐに言わなかったんだ?」

「すぐに言わなくて、ごめんなさいね。大ちゃん、会社のことで悩んでいたりしていたから・・・」

「どうして、そんな気をつかうようなことするんだよ! 」
大輔の表情がけげんな顔つきになった。

「お前、どうして、俺が会社を辞めることを言った時、そのことを言わなかった?」

「黙っていたのは、ごめんなさい。でも、私ね、大ちゃんには好きな仕事をしてもらいたいの。もしも、あの時に妊娠の話をしたら、会社を辞めることを考え直すでしょう。私、大ちゃんがいやいやながら、悩んでいる姿は見たくなかったから・・・」

「それが余計なことなんだ!」
大輔は怒って言った。

「そんな、同情なんか欲しくないよ! 俺だって、それがわかっていたら、会社を辞めることも考え直すさ・・・」
と、愚痴るように言った後、大輔は家を出て行った。

 
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