テンポラリー・ジョブ
「どうして、彼女のために結婚式をしないんですか?」
大輔が真顔で雅夫に尋ねた。

「・・・」

「大輔君! どうしたのかね?」
松崎は、突然の大輔の行動が気になってやってきた。

「あなたも男だったらわかるでしょう。彼女は、男である自分が支えていかなきゃならないって・・・いう気持ち。俺は、自分の力で恭子を幸せにしたいんだ」
雅夫が強い意志で言った。

「わかります。あなたの気持ちは、僕も男だから妻である知恵を支えていかなきゃならないと思っています。でも・・・」
一瞬、大輔の言葉が切れた。

「恥ずかしい話、今、自分は失業中です。でも、知恵は、なにも言わずに、ただ見守ってくれています」
「・・・」

「最近、わかるんですけど。結婚してから、ずっと、自分は妻に支えられて生きてきたんじゃないかってね・・・」
「・・・」

「つまり・・・何て、言うか・・・」
大輔は、次の言葉がうまく出てこない。

「要するに、男だから面子とか、プライドとか意地をはることより・・・つ、つまり心許せる相手には、時として弱い部分をみせてもいいと思うんです」
「・・・」

「そのかわり、逆に彼女の方が弱い部分をみせたら、今度は、あなたの方が支えてあげたら、いいんだと思うんです」
「・・・」

「うまく言えないけど、夫婦になるって、そんなことじゃないんでしょうか。今の彼女の気持ちを考えたら、結婚式を挙げてあげたら、どうですか?」

雅夫は、大輔の言ったことに反論はしなかった。そして、
「あんたの旦那、おもしろい人だね」
と、知恵に言ってミニバンに乗り込んだ。

「おい、乗らないのか?」
雅夫が運転席の窓を開けて恭子に声をかけた。

恭子が助手席に乗り込んだ。

「今日は、キャンセルしないでこのまま帰る」
雅夫は、知恵に無愛想に言って車をだした。






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