秘密の記憶は恋の契約
「早まるな。もちろんちゃんと考えてるけど。そういうのは、もっときちんとするつもり」

目を見開いて固まる私に、綾部くんはにやりと余裕の笑顔を見せる。

「だから・・・気持ちだけ固めて待っとけ。おまえが期待する以上の、すげえプロポーズしてやるから」

「な?」と言って、心の中を覗くように、彼は私の瞳を見つめた。

それは、いつもの彼と変わらない。

余裕で、自信満々で、悔しいくらいに偉そうで。

こんなとき、私はきまって、怒って彼に反発するけど。

でも・・・今は。

それ以上に、私はとても嬉しくて。

気付けば素直に「うん」と頷いていた。

「じゃあ・・・・・・期待してる」

「ああ。大いに期待しとけ」

甘く笑った彼のキスが、ほんの一瞬頬に触れた。

高鳴る胸で真横を見ると、優しい笑顔が向けられた。

それは、私が彼を好きだと気づいた、この世でいちばん大好きな表情。

永遠に続く約束の、その前にあるプロポーズ。

きっとそれは近い未来に、私の前に訪れる。

もしもそれが今すぐだって、一か月後だって変わらない。

私の気持ちは「YES」って、返事はすでに決まっているんだ。

「・・・いつでもいいよ」

「なんだ、待ち遠しいか」

見透かすように彼が笑う。

私は隠しきれない嬉しさで、「内緒」と言って笑顔を返した。



* * * E N D * * *






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