秘密の記憶は恋の契約
手を握られるは、下の名前で呼ばれるは、完全に、彼のペースにはまってしまった。


(イヤってわけでもないけど・・・)


その分、なんだか・・・やっぱり悔しい。

それに。

そもそも、綾部くんは私のどこを好きなのだろうか。

絶対に、女の子から引く手あまたなはずなのに。

ずっと同期として何事もなく過ごしてきた私を・・・今更、何が気に入って好きになったりしたんだろう。


(・・・わからない・・・)


冷めてしまった紅茶を飲みながら、私は答えの出ない疑問を、何度も自分に投げかける。


(ほんとに・・・昨日の夜、綾部くんとしちゃったのかな・・・)


考えながらもう一度、今日一日を振り返る。

タクシーの中で握られた手。

去り際に口にした私の名前。

きっと、綾部くんは手が早いタイプなのは確実で・・・。


(ということは、もしかしたら本当に・・・!?)


綾部くんと、すでに男女の関係になっているのかもしれない。

私は何も覚えていないのに、彼は・・・私の全てを、すでに知りつくしているのかもしれない。


(・・・・・・う、うわーっ!!)


考えて、顔から火が噴きだした。

想像することしかできない昨夜の情事に、私は一人、悶絶することしかできなかった。










< 46 / 324 >

この作品をシェア

pagetop