秘密の記憶は恋の契約
桜木町駅の朝は、いつも通り、仕事に向かう人々が長い列を作っていた。

改札を抜け、人波に乗って横断歩道を渡り終えると、「さくらシステムズ」のビルが斜め前方に見えてくる。


(はあー・・・。もうすぐ着いちゃう・・・)


本日も、すでに何度目かになる深いため息をつく私。

重い足取りでなんとか会社に辿り着くと、社員証をかざしてゲートをくぐり、エレベーターに乗りこんだ。


始業開始10分前。いつもと変わらぬ出勤時間。

5階に着いてシステム事業部のフロアを覗くと、すでに仕事を始めている綾部くんの姿が見えた。

真剣な眼差しでパソコンと向き合う、キレイな横顔。

やはりかっこいいものはかっこいいと思わざるを得なくって、私はちょっと、悔しくなる。

ドキドキしながらフロアを進み、自席の位置に辿り着いた私は、平静を装って綾部くんに声をかけてみる。

「お、おはよう・・・」

振り向いた彼と目が合うと、私は大きく胸を鳴らす。

「・・・おはよ」

綾部くんが、私に微笑む。

その顔は、昨日までと確実に違う、「彼女」に向けられた甘い顔。

一気に紅潮した頬を悟られないように、私はうつむきながら席に着いた。
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