秘密の記憶は恋の契約
チラリと横に立つ彼を見ると、綾部くんは口元に手を当てて、「ククク」と肩を震わせていた。

「・・・なに?」

感じの悪い彼に、目線を合わせず問いかける。

「いや、緊張してるのバレバレだから」

「・・・してないし」

「してるだろ」

「してないっ!!」

睨むように綾部くんを見上げ、力いっぱい否定する。

「・・・ふーん・・・。じゃあ、こっち向けよ。おまえの顔が見えないだろ」

「!?べ、別に・・・見せたくないから!!」

彼の言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がったけれど、私はプイッと視線をそらす。

「・・・オレは、見たいんだけど」

そう言うと、綾部くんは私の頬を優しく撫でる。


(!!)


「か、会社だよ!?ここ・・・!」

火照った頬を隠すように、私は勢いよく下を向く。

「会社じゃなければいいのか」

「!?そういうわけじゃ・・・」

モゴモゴと口ごもっていると、エレベーターがチン!という音を立てて5階フロアに到着した。
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