秘密の記憶は恋の契約
(結局、そのままにしちゃったな・・・)


会社帰りの電車に揺られながら、私は、昼間の出来事を思い出していた。

一方的に告げられた、デートの約束。

私の返事も聞かないで、成立させたデートの誘い。


(なんて・・・)


断ろうと思えば、断るタイミングなんて何度もあった。

今からメールで断ることだって、もちろん可能なことである。

けれど。

エレベーターで、私の頬に触れた指。

甘く囁く低い声は、やっぱり私は好きだと思った。

ドキドキと鳴る、胸の音。

なんだか浮足立つ気持ち。

私はこの感情を、見過ごすことなんて出来なかった。


(また、綾部くんの思い通りになっちゃうのも、ものすごく悔しいんだけど・・・)


「日曜日、10時に迎えに行くから。来るまで待ってる」

そう、帰り際に言われた私は、「綾部くんが強引だから仕方ないんだ!」と理由をつけて、決して、望んでウキウキデートするわけじゃないのだと、自分自身に言い訳をした。
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