秘密の記憶は恋の契約
地名に「峠」と名の付く坂道を、綾部くんの車がするすると滑り降りていく。

ハンドルを微妙に操作しながら、正面を向いたままの彼が尋ねた。

「鎌倉、久しぶりって言ってたけど、どのくらい?」

「うーん・・・1年以上は行ってないかな。

今年の初詣は別の場所に行ったから。去年は鎌倉に行ったけど・・・だから、その時以来かな」

確か・・・そうだ、去年の今頃、私は付き合っていた彼氏にフラれたんだ。


(その半年前のお正月には、ラブラブで初詣にも行ったのに・・・)


当時、一緒におみくじを引いて、お互いの運勢を見せ合いっこしたことを思い出す。

「はあ」と小さくため息をつくと、ミラー越しの視線を感じた。

「・・・なんか思い出に浸ってるみたいだけど。前は男とでも行ったのか」


(・・・ドキ)


「そうだったかな・・・どうだったかな・・・」

悟られたことにドキリとして、私はなんとなく、曖昧な返事をしてしまう。

「・・・なんだそれ。ふざけてんのか」

「だって・・・そんなのどうでもいいでしょう」
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