秘密の記憶は恋の契約
ぐるぐると、頭の中は混乱の一途をたどる。

キスされたことは事実だけれど、記憶がない間は・・・いったいどうだったのだろう。


(どうしよう・・・やっぱり、ちゃんと聞くべきだよね・・・)


向けられた視線と重ねられた唇の感触を思い出し、ドキドキと心臓の音がうるさく響く。

落ち着かないココロでストッキングを履いた私は、化粧を直し、茶色がかったセミロングの髪をブラシで軽く整えた。


(服も昨日と同じだけど・・・大丈夫かな)


うちの会社には制服がない。

立派な更衣室があって、ロッカーも一人にひとつ与えられてはいるけれど、それは完全に荷物を置くだけのもの。

普段は着替えなくて楽だと思っていたけれど、今日ばかりは制服があったらよかったと、その存在を渇望した。

「・・・はあ・・・」

何度目かのため息をつき、見上げた壁掛け時計の針は、ちょうど8時を指していた。


(金田さんは、きっと早く来てやらなきゃいけない仕事があったんだよね・・・)
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