秘密の記憶は恋の契約
20時すぎ。

海沿いのレストランで夕食をすませると、綾部くんの車は帰り道を進んで行く。

「家が近いっていうのはいいな。送るのも楽だし」

「うん・・・そうだよね」

独り言のように呟く彼に、私もぼそりと同意する。

海沿いの国道は、狭い上下一車線で、ゆるいカーブを描いている。

渋滞で列を成す車の赤いテールランプが、昔見たアニメの架空生物に似ているな、とぼんやり思った。

「結構歩いたから疲れただろ。寝てていいよ」

運転席の彼は、そう言って私に微笑みかける。

車窓からは、くるくると回る灯台の灯りや、ほのかに光る船のライトが浮かんで見えた。

「・・・ううん・・・大丈夫。車から夜景見るの、好きなんだ」

もちろん、疲れていることは疲れているけど。

綾部くんの車の助手席で眠るなんて、今の私には、もったいなくて出来ないと思った。

「・・・そっか。じゃあ・・・いつでも言えよ。夜のドライブぐらい、いつでも連れて行ってやる」

その言葉に。

私の耳は大きく反応したけれど、どうしようもない照れ隠しで、窓の外を見ながら「うん」と軽く返事した。


(・・・予定外だな)


好きになるって、なんとなく、そんな予感はしていたけれど。

こんなにすぐに好きになるなんて、完全に、予定外の展開だった。
< 83 / 324 >

この作品をシェア

pagetop