秘密の記憶は恋の契約
「じゃあ・・・今日はどうもありがとう」

黒いステーションワゴンが、マンションの前に停車した。

送ってくれた綾部くんにお礼を言って、私はシートベルトをかちゃりとはずす。


(どうしよう・・・もうちょっと、一緒にいたいとか思っちゃうな)


夜のドライブは、あっという間に終わってしまった。

名残惜しさを感じながら、私は笑顔で「また明日」と言って助手席のドアに手をかけた。

「美咲」

レバーを引こうとした瞬間、綾部くんは私の腕をつかんで呼び止める。

「・・・やっぱり、このまま・・・オレの家に来ないか」

低音の声が耳に届き、私は心臓が止まりそうになってしまった。

うなずきそうになる自分を制御して、私はうつむいて彼に答える。

「それは・・・無理」

本当は、行ってしまいたい。

そんな想いもあるけれど。

彼を好きだと自覚したのは、本当に、ほんの少し前のこと。

ここで素直にうなずいて、関係を深める勇気は私にはなかった。
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