秘密の記憶は恋の契約
自宅に帰り、洗面台の前に立った私は、語り掛けるように自分の顔を覗き込む。


(ダメだな・・・。完全に、好きかもしれない)


唇に触れ、先ほどのキスの余韻を確かめる。

戸惑うようなときめき。

つい先日まで、ただの同期だった彼への想いは、もう、確実に恋愛感情へと変化していた。


(やっぱり・・・もっと一緒にいたかったな・・・)


うなずく勇気が出なかった。

素直に好きだと言えなかった。


『オレの家に来ないか』


低音の、彼の声を思い出す。

行くのは無理だと答えたけれど、ひとりになって、ここまで切なくなるなんて。

同期だから、綾部くんだから。

意地っ張りな私が、素直に「好き」だと言うことは、とても勇気がいることで。


(でも・・・)


やっぱり、もっと一緒にいたかった。

彼を想えば想うほど、その気持ちは大きく膨らんでいく。


(・・・伝えようかな)
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