秘密の記憶は恋の契約
汗を拭き拭き、私が状況説明すると、彼は嬉しそうに「ふーん」と笑う。

「デートの余韻にでも浸ってたのか。オレのことでも考えてた?」

「は!?ちょっ・・・何言って・・・!」

完全に図星だけれど。

大声で反論しそうになって、私は慌てて口を押さえた。

チラリと周りを確認すると、にやにやとこちらを見ている金田さんと目が合った。


(う・・・)


「会社でそういうこというの、本当にやめて」

「いいじゃん、別に。社内恋愛禁止じゃないし」

「そうかもしれないけど・・・!!やりにくいでしょ!私も、他の人も」

「そうかあ?」

相変わらず、楽しそうに笑う綾部くん。

私はこれ以上は危険と判断し、会話を終わらせようとしたけれど。


(あれ・・・?)


「岩下さん・・・まだ来てないの?」

右隣の空席。

始業時間を過ぎたのに、シロクマのような彼の姿が、今日はなぜだか見当たらない。

「あれ・・・?そうだな。そういえば見かけてないな」
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