秘密の記憶は恋の契約
アクアシュガーは、ここ数年業績を伸ばしている輸入食品会社である。

関東圏内のデパートやショッピングモールに多数出店しているけれど、最近では関西方面にも徐々に店舗を増やしている。

今回は、ポイントカードのシステムを一部改良したいということで、うちの会社に依頼があった。

「えっと・・・ここだね。23階」

さくらシステムズから、海方面に歩いて行くこと15分。

ホテルと商業施設、ビジネスゾーンが同居する大型施設の23階に、アクアシュガーは位置していた。

名前はメジャーだし、なんとなく大きな職場をイメージしたけど。

施設案内図を確認すると、5つの会社が入っている23階フロアの中で、アクアシュガーは一番小さな規模だった。

「へえ・・・思ったより小規模だな」

「ほんとだね。私も、フロアのほとんどがアクアシュガーなのかなって勝手に想像してたけど」

「少数精鋭ってとこか。・・・緊張してる?」

「うん・・・まあ・・・」

うつむいた私の顔を、綾部くんは柔らかい顔で覗き込む。

「大丈夫だよ、おまえなら。オレもついてるだろ」

「うん・・・」

綾部くんは、心強い言葉を私にかけてくれるけど。

今回、綾部くんはあくまでも、岩下さんのピンチヒッター。

岩下さんがいないとなれば、私が責任者のようなもの。


(そうだ・・・。綾部くんに励まされてる場合じゃないぞ!私がしっかりしなくっちゃ!)


そう思った私は、不安な気持ちを抑えながら、彼に大きく頷いた。








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