陽だまりの天使
1、天使発見
俺が婆さんと結婚してなかったら嫁にほしかった。
あと50歳若かったら嫁にしたのに。
うちの息子の嫁に来い。
孫の嫁にならないか。
求婚は後を絶たないが、実際には恋愛もできないし、出会いもない。
老人ホームのスタッフとして、働いてもうすぐ丸2年。
毎日おじいちゃんおばあちゃんたちの世話をさせてもらいながら、可愛がられる毎日。
男前の施設長はしっかり既婚者だし、若手男性スタッフは気の優しい人たちばかりでやはり彼女持ちや既婚者。
彼氏が欲しい願望から合コンを開いてもらって出会いを求めてみたが、引っ込み思案な性格の上、女子高に続き、女子率の高い専門学校を経るとすっかり男性との関わり方を忘れてしまった私、高野佳苗にはかなりハードルが高かった。
「はい、これ二人に作ったの。バレンタインだからね」
私は花柄の入った半透明のプレゼント包装をしたブラウニーを同期の直美と真帆に渡す。
カップルのための日になってきたイベント日にもかかわらず、同期スタッフの女子3人と居酒屋で友チョコとか、男っ気が全くないのも甚だしい。
別にわざわざバレンタインに集まる必要もないのだが、夜勤もあるシフトの関係で3人で集まれるのが、たまたま今月はこの日になってしまったのだ。
ショートカットでテンションの高い直美が渡したブラウニーを抱きしめて袋からこぼれるチョコレートの香りを大きく吸い込む。
「きゃー、嬉しい。いい匂い!しかも手作り!!さすが私の佳苗!私が男だったら佳苗を彼女にするー、女でも良かったら、彼女にするー」
向かいの席に座っているのに、抱きついてきそうな勢いで両手を広げる直美に、隣に座る真帆がすげなく直美の手を軽くはたく。
直美の喜び方には圧倒されてしまうが、これだけ喜んでくれるのならば頑張って作った甲斐があったというもの。
「はいはい、直美が嬉しいのはわかったから落ち着いて。佳苗、今日夜勤明けでしょ?佳苗、ホント感心するわ。
ありがとう。大事にいただくわ」
冷静にグラスや食べ物が倒れないように気を配ってくれた真帆は、机上の惨事を防いだのを確認し、涼やかな視線を私に向ける。
長い髪を後ろに払いながらクールビューティの名をほしいままにする真帆が微笑むと、女の私でもどきりとする大人の色気を感じる。
同い年のはずなのに、カラーの違うメンバーだけれど入職からずっと仲良くやってきた。
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